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ことしのクリスマス・イブは(2) ~なんといっても、サプライズは、国会開会式出席表明の共産党だった!

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  志位さん、ご乱心か?とも思ったのだが、大島衆議院議長に、来年の通常国会から天皇が出席する開会式に出ることになったので「よろしく?」と穀田議員・山下議員と共に挨拶し、そのあと、記者会見を開いたというのである。当日のネットで見る限り、皮肉にも、一番詳しい報道をしているのが産経ニュースだった。

共産・志位委員長会見詳報(1)(2) http://www.sankei.com/politics/news/151224/plt1512240038-n1.html

   記者会見の動画を見ると、12月25日の「赤旗」記事に掲載されない質疑もあったのだ。それは、後述するとして、志位委員長の表明が5分、質疑が18分の最後の方で、今回の決定の党内論議に触れている部分も紙面では省かれていたが、そこでは12月21日の常任幹部会の全員一致で決まったものだと回答している。

残念ながら、決して想定外なことではなかった 
   2006年に開設した私の、このブログでも明らかなように、私は、歌詠みの一人として、近現代の「天皇制と短歌」について、ほそぼそながら、その歴史をたどり、検証を続けてきた。おのずから、新憲法下における「象徴天皇制」にかかわり、天皇の短歌作品を中心に考察し、「歌会始」という皇室行事が現代歌人たちの多くが絡め取られている現実を指摘し、幾冊かの書物を出版してきた。今回の「表明」は、どうしても見過ごすことの出来ない「事件」に思えた。「事件」ではあったが、決して想定外なことではなかった。これまでも、幾つもの、幾つもの布石があったのである。

    記者からの「なぜ、このタイミングで」という質問もあり、志位委員長は「政局への対応とかかわって、今回決定したわけではない」と強調する。決定の理由の核心は、冒頭の表明でも、質疑の回答においても、「開会式での天皇の発言に変化が見られ、この30数年来は儀礼的・形式的なものものとなっている。天皇の発言内容に憲法からの逸脱は見られなくなり、儀礼的・形式的な発言が慣例となって、定着した」という主旨で語られている。 「表明」部分で志位委員長は、これまで1947年から、国会開会式に欠席してきた理由について、一つは、開会式の形式が「主権在君」の旧憲法下の形式が踏襲されていたこと、二つは、天皇の開会式の「お言葉」に日・米の内外政策を賛美・肯定するなどの政治的発言が含まれ、憲法が定める天皇の「国政に関する機能を有しない」という制限規定に違反していたこと、と述べている。後者については、上述のように、30数年来、儀礼的・形式的な発言が慣例となって憲法上問題はなくなった。しかし前者に言う形式については、戦前を踏襲していることに変わりがないので、主権在民の原則と精神にふさわしいものになるよう、抜本的な改革を求めるためにも開会式に出席することがより積極的な対応になると判断した、というのだ。 「お言葉」の内容の変化を言うのなら、この30数年を待たずとも、判断できたのに、なぜ今なのかが不明であり、形式については、旧憲法下と変わっていないながら、出席することによって積極的に対応するというならば、1947年以降、出席しないまま、何をしてきたのかの疑問を拭えない。
  この理由の曖昧さが、つぎのようなメディアの報道となった。しかし、メディアは、以後、それ以上のことは追跡しないし、検証しないのが習いでもある。多くのメディア自身が、現行のような天皇の「おことば」を頂いての国会開会式の在り方にどう考えるのかについてはすべてスルーして、その姿勢を明らかにすることを避けているのが現状であろう。  以下は、メディアの報道を時系列で、見出しと、その共産党への論評部分を抜粋したものである。

 ・産経ニュース(12月24日11時14分)共産党、国会開会式に出席へ 天皇陛下御臨席に反対方針を転換「アレルギー」払拭へ:共産党は安全保障関連法の廃止を求める野党連立政権「国民連合政府」構想を提案しており、従来の対応を変えることで他党に根強い「共産党アレルギー」を払拭する狙いがあるとみられる。
・NHKwebニュース(12月24日12時20分) 共産が方針転換 通常国会の開会式に出席へ: こうした背景には、国会対応で柔軟な姿勢を見せることで、来年夏の参議院選挙に向けて野党勢力を結集するための環境を整えたいというねらいもあるものとみられます。
・朝日新聞デジタル(12月24日12時49分)共産党が通常国会開会式へ 党として初、野党と同調:これまで天皇陛下の出席を理由に欠席してきたが、方針を転換した。開会式に出ている他の野党と足並みをそろえることで、来夏の参院選での共闘へ環境を整える狙いがある。
・共同通信(12月24日12時59分)共産、国会開会式出席へ 参院選睨み現実路線:共産党は今年秋、党綱領に掲げる「日米安全保障条約廃棄」の凍結を打ち出しており、来年夏の参院選をにらんだ現実路線の一環とみられる。
・時事通信(12月24日16時49分)共産、国会開会式へ=「現実路線」さらに一歩:共産党は、安倍政権に対抗するため野党各党に提唱した「国民連合政府」構想に絡み「日米安全保障条約廃棄」の一時凍結などを表明した。それに続く今回の方針変更には、現実路線への転換を一段とアピールする狙いがありそうだ。
・東京新聞(12月24日夕刊)国会開会式に共産出席へ 「天皇臨席は憲法逸脱」から転換:同党は来年夏の参院選をにらみ、党綱領に掲げる日米安保条約廃棄の凍結を今年十月に打ち出しており、今回の方針転換も現実路線の一環とみられる
・毎日新聞(12月25日)共産国会開会式出席へ:「現実路線」を相次いで打ち出すことで、無党派層の支持拡大を目指す狙いがある。

 

  正直いって、私も、共産党の今回の対応は、選挙を控えて、まさにポピュリズムに走ったのではないかと思った。「戦争法」廃止の一点で野党連合を組んでの安倍政権打倒を言いながら、いまに至って「天皇の制度」のこれまでの方針の一部を転換する必要があったのだろうか。その転換への矛盾にも思える理由と相まって、私の理解を超えた。
 しかし、今回の決定は、唐突のようでありながら、これまでにはいろいろな伏線があったように、私には思われた。会見中の質疑で、共産党の「君主制」に関する考えを確認されて、志位委員長は「2004年に決定した新しい綱領では、天皇の制度について『君主制』という規定をしておりません。」と明言し、天皇の制度に対する党の方針として、以下の「綱領」の文言の「…憲法の条項と精神からの逸脱を是正する」までの前半を「課題」とし、将来の「発展方向」として、後半の文言「党は、一人の個人が・・・」を復唱していた。

 2004年綱領[憲法と民主主義の分野で] 11 天皇条項については、「国政に関する権能(けんのう)を有しない」などの制限規定の厳格な実施を重視し、天皇の政治利用をはじめ、憲法の条項と精神からの逸脱(いつだつ)を是正する。 党は、一人の個人が世襲(せしゆう)で「国民統合」の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく、国民主権の原則の首尾一貫(しゆびいつかん)した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ。天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃(そんぱい)は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである。

  上記の新綱領で、「その存廃(そんぱい)は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」とした点に着目してみる。前段で「現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく、国民主権の原則の首尾一貫(しゆびいつかん)した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ」としながら「国民の総意によって解決 する」と、どこかハシゴをはずされたような文言に違和感を覚えていた。現制度の廃止への方向性を明言できなかったのだろうか。私はここに大いなる後退を見てしまったのである。「将来、情勢が熟したときに」とあるが、「綱領」の立場での、具体的な活動や努力がどれほどなされたか、私には思い当たらない。たとえば、「おことば」が述べられる議長席より高い「玉座」の改革一つにしても、これまでの70年近く、具体的な提案を国民に働きかけたり、議会内で発言をしたりしたことがあったのだろうか。長い間、開会式に欠席はしていたのはなぜだったのか、建前や惰性に過ぎなかったのではないか。いまさら、出席して抜本的な改革を求める、と言われても、信じがたい。(続く)


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